B.A.R. Report BR-9 レシーブのセッターへの返球率と得失点 2007年9月30日、チームA vs チームB(家庭婦人バレー) |
page. 25-0008 公開開始日:2025.05.10. 内容更新日:2025.05.10. レイアウト更新日:2025.05.10. |
序
私が現在の在住地に移住した時に、この地区のバレーボールがレシーブ~トス~アタックの3つのリズムを無視してただただ攻撃して(1つ又は2つのリズムで)点を取ろうとすることに驚いた。そこで、レシーブを正確にセッターに返して攻撃のリズムを作ることの重要性を示すために、セッターが安定してトスを上げられる時とそうでない時の、その時の攻撃で得点できた場合と、相手に拾われて切り返しの攻撃で失点した場合を集計し、分析を行なった。
その結果、サーブレシーブ・アタックレシーブ共に、セッターに正確に上がった場合は30~40%の率で得点でき、切り返しの攻撃を受けてもほとんど点は取られていない。逆にセッターに上がらなかった場合は、その時の攻撃で取れる点より切り返しの攻撃で失う点の方が2~7倍多くなる。従って、レシーブを正確にセッターに返すことが、試合に勝つための重要な因子であることは明らかである。
この分析結果は、残念ながら当のチームの監督には全く受け入れてはもらえず、相変わらずの勝てないチームのままであったが、自分が行なった集計方法と分析結果はどのチームにも参考になると思われるので、レポートとして公開する。
Ⅰ.レシーブのセッターへの返球率
表の見方:例=サーブレシーブ、計(1) サーブレシーブ
チームAは、 39 本のレシーブ中、10 本がセッターにきちんと上がり、レシーブ成功率は 26 % であった。
対するBチームは成功率 52 % で、チームAに比べて2倍の率でセッターに上がっている。
レシーブ総数がチームAの方が多いのは、チームBの方が得点を多く取っており、結果としてチームBがサーブを多く打っているためである。
チームA | チームB | |||||||||||||
第1セット |
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第2セット |
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計 |
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成功数/レシーブ全数=成功率 (%) |
(2) アタックレシーブ
チームA | チームB | |||||||||||||
第1セット |
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第2セット |
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計 |
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成功数/レシーブ全数=成功率 (%) |
Ⅱ.レシーブのセッターへの返球の成否と得失点との関連
表の見方:例=サーブレシーブ、計(1) サーブレシーブ
チームAは、 39 本のレシーブ中、10 本がセッターにきちんと上がり、その攻撃で 4 本(点、 40 % )を決め、
決まらなかった(拾われた)切り返しでは点は失っていない( 0 % )。
しかしセッターに上がらなかった 29 本について見ると、その攻撃で 1 本( 3 % )決めることができたが、
切り返しでは 7 点( 24 % )を失っている。
対するBチームは 25 本のレシーブ中、13 本がセッターにきちんと上がり、その攻撃で 5 本( 38 % )を決め、
切り返しでは 1 点( 8 % )を失った。
しかしセッターに上がらなかった 12 本について見ると、その攻撃で得点はできなかったが、
切り返しでは 2 点( 17 % )を失った。
チームA | チームB | |||||||||||||||||||||||||||
レシーブ の成否 |
成功 | 失敗 | 成功 | 失敗 | ||||||||||||||||||||||||
第1セット |
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第2セット |
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計 |
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得点/┏レシーブ成功┓=得点率 (%) 失点/┗又は失敗全数┛=失点率 (%) |
(2) アタックレシーブ
チームA | チームB | |||||||||||||||||||||||||||
レシーブ の成否 |
成功 | 失敗 | 成功 | 失敗 | ||||||||||||||||||||||||
第1セット |
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第2セット |
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計 |
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得点/┏レシーブ成功┓=得点率 (%) 失点/┗又は失敗全数┛=失点率 (%) |
※ | レシーブの成功とは、セッターがオーバーハンドでセットアップができる事が条件。 (従って、二段トスはレシーブは失敗とみなす。) |
※ | アタックレシーブは、フェイント処理やブロックカバー等、1本目全てを含む。 (9人制ではブロックも1本目に数えるため、この分析ではブロックにかかるとレシーブは失敗として計上される欠点がある。) |
※ | セッター返球失敗の中には、ブロックで相手コートに戻った場合や、ネット上に来たボールのやむを得ないダイレクトアタックも含まれている。 |
※ | 得点は、強攻軟攻を問うていない。結果として得点につながったかどうかを問う。 |
※ | この分析表には、「セッターに上げずに返したがために、相手に攻撃のチャンスを与えて失点につながった」数は表れていない。 |
Ⅲ.分析結果
試合結果は、チームBが勝っている。その原因を、レシーブの成否で測るのが、本分析の目的である。 まず、両チームのレシーブの成否を比較すると、サーブレシーブに関してはチームBの方がチームAより2倍の確率でセッターに上げている。アタックレシーブについても、やはりチームBの方がチームAより2倍正確に上げている。(本数ではなく、確率が2倍であることに注意。) 次に、レシーブがセッターに上がった場合と上がらなかった場合の、それぞれの場合の得点できた率と切り返しで失点した率を見ると、サーブレシーブについては、チームAもチームBも、レシーブがセッターに上がっていれば約40%の割合で得点でき、切り返しの失点はほとんどないと言ってよい。(チームBの失点は率で言えば約10%だが、点数で言えば1点のみである。)しかしセッターに上がらなかった場合を見るとどちらのチームもほとんど得点できず、逆に切り返しで失点している。ただし、チームAの方がチームBより若干失点が多い。この事も、チームBの勝利の一因になっていると思われる。 一方、アタックレシーブについて見ると、レシーブが成功すればチームAは約30%、チームBは約40%の割合で得点できており、若干チームBの方が上である。これも勝利の一因であろう。しかし驚いたことに、レシーブが成功していれば切り返しの失点は、両チーム共に0である。この事からも、レシーブをセッターに返せるかどうかが、勝利のために重要であることがわかる。また、レシーブが失敗した場合、それでも得点につないだチームBと失点につながることの多かったチームAで、試合結果に大きく影響したことは想像に難くない。 総じて言うと、レシーブが成功すればほとんど失点せずに約40%の割合で得点でき、レシーブを失敗すると得点より失点の方が明らかに多くなる。おそらくどのチームでも、率を計算すれば同程度と思われる。チームAとチームBでも、率ではそれほど大きな差は認められない。異なるのは、セッターに返った「本数」である。同じ40%でも、20本返った40%(8得点)と40本返った40%(16得点)とでは雲泥の差がある。ここに、「1本でも多くセッターに正確にレシーブする」ことが重要である理由がある。 |
Ⅳ.集計方法
以下の方法で集計を行なった。 |
① | ビデオを撮り、映像を各ポイントゲームごとに分解する。 |
② |
以下の票を作成し、各ポイントゲームのラリーごとに”レシーブの成否”、”トスの成否”、”アタックの成否”を順に○△×で書き込む。 票は、中央から両サイドへ向かって”レシーブ”、”トス”、”アタック”の順とした。 |
③ | 各レシーブの成否と、アタックによる得点と切り返し攻撃を受けて失った点をチェックし、各ポイントゲームごとに合計、更にこれをセットごと、試合ごとに集計する。 |
②票の例(1) ポイントゲーム No.18 チームBサーブ ![]() |
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チームA | レシーブ種 | チームB | ||||||||||
レシーブ成功 | レシーブ失敗 | レシーブ成功 | レシーブ失敗 | |||||||||
回数 | 得点 | 失点 | 回数 | 得点 | 失点 | 回数 | 得点 | 失点 | 回数 | 得点 | 失点 | |
1 | 0 | 0 | サーブ・レ | |||||||||
1 | 0 | 0 | アタック・レ | 1 | 0 | 0 | ||||||
1 | 0 | 0 | アタック・レ | 1 | 0 | 0 | ||||||
1 | 1 | 0 | アタック・レ | 1 | 0 | 1 | ||||||
1 | 0 | 0 | サーブ・レ計 | |||||||||
2 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | アタック・レ計 | 3 | 0 | 1 |
②票の例(2) ポイントゲーム No.27 チームAサーブ ![]() |
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チームA | レシーブ種 | チームB | ||||||||||
レシーブ成功 | レシーブ失敗 | レシーブ成功 | レシーブ失敗 | |||||||||
回数 | 得点 | 失点 | 回数 | 得点 | 失点 | 回数 | 得点 | 失点 | 回数 | 得点 | 失点 | |
サーブ・レ | 1 | 0 | 0 | |||||||||
1 | 0 | 0 | アタック・レ | 1 | 0 | 0 | ||||||
1 | 0 | 0 | アタック・レ | 1 | 0 | 0 | ||||||
1 | 0 | 0 | アタック・レ | 1 | 0 | 0 | ||||||
1 | 0 | 0 | アタック・レ | 1 | 0 | 1 | ||||||
1 | 1 | 0 | アタック・レ | |||||||||
サーブ・レ計 | 1 | 0 | 0 | |||||||||
2 | 1 | 0 | 3 | 0 | 0 | アタック・レ計 | 2 | 0 | 0 | 2 | 0 | 1 |
Ⅴ.補足 (支援を行なってきたチームに対する感想など)
サーブレシーブからの練習を随分しているにもかかわらず、サーブレシーブの成功率が低過ぎる。強くて変化の大きいサーブばかりで練習しても、技術向上には結びつかないのではないか。①緩いサーブを丁寧に上げる、②強いサーブに食らいつく、③再び緩いサーブを確実に上げる、といった練習法則にのっとった練習を検討すべきである。 全般に、1本目をセッターに上げようという練習努力が足りない。回数のわずかなツーアタックの成功率を上げるより、サーブレシーブもアタックレシーブも1本目を確実にセッターに上げたほうが得点できることは、数字がはっきり示している。 強いチームは、セッターに確実にレシーブを上げて攻めて来る。ツーアタックを拾う練習だけでは、強いチームには決して勝てない。強いチームに勝つためには、6人制では敵の強打をセッターに上げられる事が主となる。ただし9人制の場合は、強打と軟打のレシーブ・バランスが必要になってくる。 分析で数字に表せない重要な事として、「バレーボールのリズム感」がある。レシーブをセッターに確実に上げることで、攻める時は前へ詰め、相手コートにボールが入ったら引いてレシーブに備えるという「波の寄せ引き」(=リズム)がしっかり取れるようになる。相手からツーやダイレクトで攻められても、1本目をセッターに上げることで崩れたリズムを取り戻すことができる。ツーで返すのはやむを得ない場合を除き、自分達のリズムが順調で相手のリズムが崩れている時か、「拾う-繋ぐ-攻める」のリズムがマンネリ化してしまった時(自分達に渇を入れるため)くらいなもので、自分達が崩れている時の苦し紛れのツー返球は、ほとんどの場合墓穴を掘る。(相手の攻撃のチャンスを与えて失点に直結する。)ツー返球の多用は、自分達のリズムを壊す事を忘れてはならない。 |
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