B.D. FH−シリーズ翼型について

 「FH」は、「Free Hand」の略である。翼型に興味を持ち、翼型集を作ろうといろいろな翼型を集めるようになって、多くの翼型を目にするようになった。翼型と性能の関係も少しずつ分かるようになって来て、そろそろ自分の感覚で翼型を描いて試してみようと思い立ったのが、このFH−シリーズ翼型の始まりである。なお、「B.D.」は私のあだ名である「ばくだん」からとったものである。この名から、私の航空分野における研究(という程のものではないが…)は"BAK-DAN Aircraft Research" として発表している。

◎ FH−1翼型

 FH−シリーズ翼型の第一作。B.D. 23A12翼型の急激な失速性を補うため、翼根に二段失速を起こす翼型を配しようとその翼型を考え出した。そのため、下面側のラインは23A12とまったく同一になっている。一般に翼は、迎角が増加していくとある角度に達した時、揚力の低下と抵抗の増加を伴って不安定な状態に陥る。これを失速と呼んでいる。二段失速とは、一度軽度の失速(揚力の低下)に入ってから迎角が増加してもしばらく安定状態(揚力の増加)を保ち、さらに大きい迎角に達して完全に失速する状態を指す。NACA 64(4)−421、NACA 65(2)−618[a=0.5]、NACA 65(4)−421[a=0.5]等にこの傾向が見られる。(参照:Ira H. Abbott & Albert E.von Doenhoff , Theory of wing sections , Dover Publications Inc. , 1959)下面のラインは決まっていたため、上面のラインをフリーハンドで描き出した。
 結果は成功であった。23A12とこの翼型を組み合わせたアスペクト比=6の矩形のラジコン・グライダーは、NACA 23012の高い性能を持ちながら、失速が近づくと機体が一瞬沈み、速度を上げれば容易に失速は回避できた。もしこのとき更に速度を落とすと、面白い事に空中でいきなり止まり、次の瞬間頭を真下に向けてまっ逆さまに落ちて行った。23012の失速性の片鱗を見せつけられたような気がしたものだ。

◎ FH−7翼型

 高アスペクト翼のラジコン・グライダー(ラダー機)に用いる翼型として創作した。翼平面形がすでに決まっており、外翼のテーパに合わせてFH−7t翼型も同時に作った。FH−7tは、上面はFH−7とは前縁から翼端の後縁位置までの間で一致しており、下面を新たに描き出している。この方法はFH−7以後も継承されていくこととなった。
 性能は、現在に至るまで、製作した自作ラジコン・グライダー中最高である。性能と言っても単に滑空比と沈下率だけの問題ではなく、旋回時の操作性やその時の沈下が押さえられるか、ラダー機では特にサーマルに入った時に素直に舵が効くか、というような実際の飛行における諸問題が問われる。それらを総合した時、この翼型は自我自賛に値するだけの性能を発揮できる。滑空比や沈下率だけならば、他にも良い翼型は存在する。FH−11翼型などはFH−7より滑空比の面では優れている。しかしFH−11は旋回時の沈下が激しく、旋回中はあて舵(ラダーを旋回と逆方向に切る事)をしないと一定の旋回を続ける事ができない。それに比べてFH−7は、順方向にラダーを切っての安定旋回、旋回時の沈下が少なく、フルアップ・エレベータの旋回をやっても失速に入らず沈下も少ない、きりもみからラダー操作で半回転で脱却できる等々、操作性の良さが最終的に飛行性能を上げるのに大いに役立っている。そのため、FH−11翼機に比べると、同じ高度からスタートしても飛行時間は倍以上になる。あきらかに性能が「優れて」いるのである。操作性が素直である事が、この翼型の最大の特徴である。着陸寸前、危険を避けるために地面すれすれでも思いきった舵が切れるのは、この翼型しかない。