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内容更新日:2006.12.05.
レイアウト更新日:2024.10.08.


パスの過程・追補


[序]
 このページは、「パスの過程」を書いてからかなりの時間が経って自分の考えも少しづつ変わってきているため、前述のページを補う形で修正・追加をするものである。前述のページを完成させた後、一ランク上のバレーチームを経験したことで考え方が変わった部分もある。一方、周囲のバレーを見ていると、格好のつくプレーは上達しているように思えるが一番基本となるパス技術が随分低下しているように感じる。オーバーパスなどは手の形がおかしい選手が増えている。自分自身の技量向上はもちろん、他を指導する上で基本をいかに教えるかという事が、世間一般に重要になってきているのではないか。そういった現状も踏まえて、この追補をまとめることにした。

[Ⅰ] 相手を見てコントロールする事
 オーバーパスでもアンダーパスでも、相手の手元へより正確にコントロールする事が求められている。そのための有効な手段は、「相手(の目)を見てボールを送る」ことである。ということは、ボールを送り「出す」瞬間には相手の目に自分の目の焦点が合っていなければならない。これは、ボールが手中に入って来る前にボールから目を離す事を意味する。ボールを見ている(ボールに自分の目の焦点が合っている)状態から相手の目に焦点を合わせるまでには、それなりに時間がかかるからである。オーバーであればボールが手中に入る直前、アンダーであればボールが腕にヒットする直前にボールから目を離し、オーバーであればボールが指と手首のクッションによって減速し、反動で出て行こうとする(コントロールが行なわれる)瞬間までの間、アンダーであればボールが腕に当たる瞬間までの間に相手の目に自分の目の焦点を合わせ、コントロール行為を実施する必要がある。しかし、ボールだけ、あるいは相手だけを見ていてはこの瞬時の目の焦点の移動は実現できない。ボールが自分の方へやって来る時点ではボールをしっかり見ながら相手を見る(視野に入れて相手の居所にアタリをつけておく)、ボールを送り出している時点では相手をしっかり見ながらボールも見る、という技術が必要になる。高いレベルのチームで練習していると、各選手がこの事を着実に実行していることがわかる。しかしこの技術は、初心者には難しい。初心者、特に小・中学生はボールを正確に手中に呼び込むことができない場合が多いので、ボールが手中に入るまではボールを見させ、「ボールが出てしまった後からでもいいから、相手の目をしっかり見なさい」と指導している。その訓練を続けることで、ボール、相手といって1つのものを中心にまわりの状況を見ることができるようになる。周辺判断能力を磨くためにもこの訓練は有効性が高い。
 なお、オーバーパスの場合は、ボールがやって来る方向と送り先の相手の目の方向との間には90度近い角度がある。目の焦点を移すには時間を必要とするが、アンダーパスと違ってボールが手中に入っている時間が長いため、それほど難しくはない。(とは言っても、相当機敏に目を移す必要がある。)それに比べてアンダーパスでは、ボールは止まってはくれない。そのため、ボールが来る方向と相手の目の方向との角度をなるべく小さくすることで目の移動時間を最小限にする。具体的には、腕をなるべく高く上げ、高い所でヒットする様にする。ボールが腕に当たった瞬間、ボールの上端越しに相手が見える形に持って行くのである。



この様にすると、ほとんど目を移すのに時間を要しない。但し、「高い所でボールを受ける」というのは自分の目に対してであって、下半身を伸ばして床から高い所という意味ではない。アンダーパスは、極力床に近い低い所で受けたほうが良い。そのため、床からの高さを同じにして自分の目に対して高い所で受けようとすると、下半身をより低く、上体も前かがみにしていわゆる「低い姿勢」を作らなければならない。



逆に言えばこの訓練は、低い姿勢を作る事につながる。
 また、腕を高く持つこの姿勢は、次の項目の考え方にも強く結びついていく。

[Ⅱ] アンダーは脇を空ける事
 東京オリンピック、ミュンヘンオリンピックの頃と比較して考え方として新しくなった部分の一つに、アンダーでのパス・アタックレシーブ・サーブレシーブがある。昔はサーブレシーブの練習の時、脇にタオルを挟んでタオルが落ちないように、つまり脇を締めてレシーブしろと教えられたものである。今は逆に、脇を空けろと教えられている。私自身も両方のやり方を実際にやってみて、脇を空ける利点を実感することが出来た。日本のバレーが進化した一つであると思う。両者を比較してみる。
  利点 欠点


◆ 真正面の強打をしっかり受け止めることができる。 ◆ 正面をそれた強打に対して、セッターへのコントロールが難しくなる。(ボールを見ながらセッターが見えない。)
◆ アタックの強弱に対して、腕の振り(時に腕を引く動作)、上半身の起こし等を使う方に走りやすい。
◆ ボールを食い込ませて受けるような体勢になるため、サーブの手元変化に対応しにくい。


◆ 強打に対して、ボールをそこに「止める」感覚でセッターへのコントロールができる。(腕のクッションが、肩の力を入れなくても自然に効く。)
◆ アタックの強弱に対して、肩の力を抜いたまま腕の締め方だけで対応できる。(肩のクッションが効くため、同じ動作で強弱に対応できる。難しくない。)
◆ ヒットの瞬間ボールと相手が同時に見えやすく、コントロールがしやすい。
◆ ボールと自分の腕先をヒットの瞬間まで視野内で同時に見れるので、サーブの手元変化にも対応しやすい。
◆ 真正面のボールを真正面で受ける事に慣れていないと、真正面のボールがかえって受けづらい場合があるかもしれない。その場合、常に少し横でボールを受ける癖がつく可能性がある。(真に真正面で受けるというのは、正しい訓練をしないとなかなか出来ないものである。)
 以上、主に強いボールへの対処について述べたが、[Ⅰ]と関連付けて次のように考える事も出来る。
───たとえばある板を用意して、上から落ちてくるボールをその板の中心に正確に丁寧にのせるとしたら、どういう動作をするだろう。

ヘソの高さに板を置いて
ボールを板の中心に落とす

目の高さに板を置いて
ボールを板の中心に落とす
この事を考えれば、目の高さで受ける意味がわかるであろう。上から卵を落としてもらって割れないように両手で受け止めるのに、脇を締めてヘソから下で受ける人はいないだろう。脇を締めて腕を曲げて目の高さで卵を受けることは出来るが、アンダーパスでは腕は曲げないから、目の高さでボールを受けるという事は脇は空けなければならない。
 自分も昔はどちらかというと「脇締め」タイプであったが、強いチームに入って「脇を空けろ」と指摘されてからその有利性を実感し、「脇空け」に考え方を改めた。欠点がないわけではないが、克服すれば有効な手段になる。特にサーブレシーブに対しては手元の変化に対して対応出来るようになり、随分自信がついた。但し、「脇締め」タイプでも目を見張るような上手なレシーブをする人もいる。その人は強いボールをしっかり「受け止めて」いた。脇空けレシーブが絶対正しいとは考えない方がよいかもしれない。

[Ⅲ] 4つの中心を合わせる事
 自分の技量不足の一つに、オーバーパスの時に手の中心にボールが入っていない、という事がある。今でも自分の基礎練習の中で重要課題の一つとなっている。原因として、左右の手が正しく対称になっていない(左手が下がる傾向がある)、ボール下に正確に入っていない、ボールの中心と手の中心が一致していない、等がある。これらの補正訓練の中で、オーバーパスとして次のような技術(「パスの過程」の中の一つ)が必要であると考えるようになった。
 「自分の目、自分の両手の中心、ボールの中心、そして送り先の相手の目が一直線になるように自分の位置をコントロールできる事」

 パスを出すことだけを考えるのであれば、自分の目、手、ボールの中心が一直線になればよい。しかしそれとて、初心者には難しい。1cmずれても手がバラバラになってしまう。初心者はまずこの3つを一直線にする訓練から始めるといいだろう。高いレベルでの試合を目指すためには、送り先の相手も一直線に出来なければならない。(実際には平面的なコースに加えて、ネット際にいるセッターに到達した時の高さのコントロールも要求される。)実現の順番としては、まず相手からボールの中心を結ぶ線上のボール後方に回り込み、その線上に自分の目を入れ、ボールと相手を見ながら自分の両手の中心を合わせる。
 対人パスは、試合のあるチームにおいてはパスの基本を練習する数少ないチャンスである。(試合のための連携プレーが練習の中心となるので、個人プレーの基礎練習が全体として行なわれることはほとんどない。)対人パス練習の時に、この4つを一直線にするよう集中して訓練するとよい。

[Ⅳ] 自然体という事
 最近、中学生に個人的に教えることがあるのだが、オーバーパスで肘を下げないよう指導されているのか、必要以上に肘を張って構える子も多いようである。どう教えたらいいか考えあぐねていたのであるが、次のような教え方を思いついた。
 「ボールを額の上で捕らえるために、一番疲れない構えをとりなさい。」
 肘が低いとか手の平の向きが違うとか、直そうと思ったらキリがない。肘の高さを直すと手があっちを向いてしまったりする。要素は2つや3つではないのである。まず「自然体である」という事。この事を基盤に各部の形を作らせていってはどうか。肘の開き具合も、バレーをやっている人であれば分かると思うが、閉じ気味で肘を高くすると二の腕が疲れるし、開き過ぎると肩が疲れてくる。そのような形では一試合はできても、一大会3〜4試合終われば腕が上がらなくなってしまう。セッターなどはもつまい。…と脅しをかけておいて、一番ラクな姿勢を追及させてはどうか。


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