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内容更新日:2002.07.25.
レイアウト更新日:2024.10.08.


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Ⅱ.実験の結果と考察

 そこで、航空工学に用いられる実験装置、飛行中の機体にかかる上向きの力=揚力と後向きの力=抵抗を模型を用いて測る「風洞」装置を使って、バレーボールの不安定現象についての実験を行なった。その結果、次のような事がわかった。
  • 臨界速度はバレーボールの場合、サーブとしてはかなり速いサーブでなければ達しないもののようである。つまり、「落ちるサーブ」は必ずしも臨界速度 による空気抵抗の急増が原因とは言えない。

  • 臨界速度以下で、 臨界速度に近い速度では空気抵抗の乱れが激しく、抵抗の半減・倍増を繰り返している。無回転サーブの大きな変化は、これが主な原因と考えられる。

  • 臨界速度以上でこれに近い速度では、変化はさほど大きくはないが、比較的規則性のある空気抵抗の変動が見られる。よく、速いサーブで左右に振えるような変化を経験することがあるが、これが原因かもしれない。実験では1秒に2サイクル程度の変動であったが、経験と大体合致する。

    • サービスボールの変化は、ボール後方の空気の乱れ具合が原因の全てである。よく、ボールの「変形」が原因であるとしてボールを強く打つプレーヤーを見かけるが、打点から2〜3mも離れれば変形はほとんど収まってしまい、変化の直接の原因とはならない。むしろ変形は最小限でよいから手の平を大きく広げて、より広く周囲の空気を乱すように打った方が、不安定な乱れが最後までくっついて行ってよく変化するようである。また、ボール自体の強い変形も打ち出す時の周囲の空気を乱す事になるだろうから、この乱れをボールの後方にくっつけてやるのも一つの方法かもしれない。なぜなら、ボール自体の変形は収まっても、後方の乱れは時に長く続くからである。
空気力(揚力・抵抗)と速度の関係グラフ
 風洞実験は、異なる日付(気象条件)で全部で6回行われ、うちバレーボールについては第5回を除いて計5回行われた。次に示すグラフは、最も現実的な条件下で行われた第6回の実験結果を軸に、他の回の結果を加味して求めたものである。グラフは揚力、抵抗のいづれについても最大、平均、最小の曲線を描いているが、これは代表の値として平均値を指し、実際は最大値と最小値の範囲内で変動している事を意味する。過去の研究者達の研究は抵抗の代表値の曲線を得る事であったが、今回の実験によって、変動の範囲や揚力の変動についても明らかとなった。その主な内容を次にまとめる。
  1. 抵抗は、11 m/s 付近までは流れの剥がれ点は移動せず、安定した状態を保つ。ただし、揚力は不安定になることがある。

  2. 11 m/s を越えると 剥がれ点が移動し始め、抵抗の減少(伸びなやみ)と変動の拡大が起きてくる。そしてそれは臨界速度に達するまで続く。揚力もこの範囲で、不安定になる傾向がある。

  3. 臨界速度を越えると抵抗は急減し、変動も一瞬収まる。しかしすぐに変動は大きくなる。また揚力も、臨界速度の前後で大きく様相が変化する。特にボールの進行方向に直角に働く揚力は、臨界速度前の最大と後の最小の間に約250 gw の差があるが、これはボールの重さ270 gw にほぼ匹敵する力であり、大きな変化が期待される。

  4. 18 m/s を越えると、抵抗も揚力も変動は小さくなり、安定した状態になる。

 以上の事から、無回転サーブは12〜18 m/s で飛ばせば変化しやすい事がわかる。