上のグラフは左端がボールのみの抵抗で、①〜⑦と記してあるものが、図に示したようにボールの近くに手の平を置いた時のボールの抵抗を示している。但し、比較の際注意しなければならないのは、左のグラフと①〜⑦のグラフとでは抵抗の目盛が異なる事である。手の平を置かない時のボールの空気抵抗は70 g である。これは、⑦の後半でも確認できる。
さてこれらの実験は、いづれも手はボールには触れていない。しかも①、②を除いて、手はボールの後方にある。これは、ボールから剥がれた流れと後方の乱れている部分の境目に手があるために手が乱れを掻き乱し、流れの前方にも影響を及ぼして「剥がれ点」が前後に移動するためである。剥がれ点が前後に移動しているであろう事は、揚力の変化から証明される。なお、後方の流れに変化があると前方の流れもつられて変化を起こす事は、流れの学問では常識的な事である。前方の流れに影響がないのは、流れの速度が音速を超えた時だけである。なぜならば、前方の空気は常に後方の空気から「ある信号」を受けていて、後方の流れが変わると、流れに無理が生じないよう前方の空気も流れを変えようとする性質がある。そして、音速を超えるとその信号が前方に伝わらなくなってしまうので、後方の変化は前方の流れに影響しなくなるのである。この信号が伝わる速さを我々は「音速」と呼んでいる。もしこのような状態を作り出そうとするならば、バレーコート18 m を0.05秒で飛ぶサーブを打たなくてはならない。人間がサーブを行う限り、それは不可能な事である。従って我々は、「後方の空気の乱れの範囲を変化させてやれば、前方の流れにも変化が起こり、大きなサービスボールの変化を作り出す事ができる」。そして、飛んでいるボールの後方に手を沿える事はできないから、サーブを打つ時に大きな乱れを作ってやるのが策となる。グラフ中⑦の実験は、後方に沿えた手の平を、サーブを打った時に手が離れていく場面を想定して、下方にすみやかに引き抜いたものである。本来は手は後方に離れて行くが、実験ではボール後方に支柱があるため、下方に引き抜いた。引き抜いた瞬間から、抵抗はすみやかに定常に戻るのに対して、揚力(流れに直角方向の力)は0.5〜1秒の間、影響が残っているのがわかる。もし1秒間影響が残ったとすれば、15 m/s で打ったサービスボールはネットを越えて、ほぼレシーバーの目前に達するまで変化が期待できる事になる。
次のグラフは⑦の実験を、時間を速めて記録したものである。
⑤ 速度変化に伴う変動
速度を一定に保った実験は、あまり現実的でない。なぜなら、サービスボールの速度は一定ではなく、遅くなったり速くなったりしているからである。ここには、その両方の場合についての実験結果を示す。最も特徴的な事は、速度が徐々に小さくなりつつある時に臨界速度 以上で抵抗に大きな変動が現れる(上グラフ (A) 部)のに対し、速度が大きくなっていく時にはこのような部分が見られない事である。上のグラフは臨界速度 を挟んで4 m/s くらいの範囲、下のグラフでは3 m/s くらいの範囲で、速度を変化させている。